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地域を衰退させるオーバーツーリズム

街の活性化に必要なものは何か?

川久保文佳川久保文佳

2019/12/20

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住民の3倍の観光客、インフラの限界

全国的に訪日外国人が増え、一部の地方では、今まで閑散としていた商店街に活気が戻ってきています。その一方で観光客が増えすぎて、日常生活に支障が出る“オーバーツーリズム”になるケースもあります。特に京都市では、このオーバーツーリズムが大きな問題としてクローズアップされています。

実際、京都では2011年には50万人程度だった外国人宿泊者数が、その後、市の予測を大幅に上回り、18年には450万人に膨れ上がっています。ちなみに京都府の人口が約150万人であることを考えると、都市が受け入れを想定して整備してきたインフラの人数を大幅に超えていることになります。観光地・京都としての抜本的なインフラ整備が必要になってきているようです。

とはいえ、外国人宿泊者が50万人程度だった11年には6500億円程度だった京都市観光消費額は18年には1兆3082億円となっているので、消費額も倍以上に増大していることになります。しかし、それに伴うインフラは伴っていず、旅行客が大きな荷物を載せてバスで移動、街中を大きなスーツケースをガラガラと道を引いて歩く姿は、当時も今も変わっていません。

結果として、京都市は観光客の絶対数が増えたにもかかわらず、インフラにかかる負担などがまかないきれず、経済的にマイナスになってしまったオーバーツーリズム対策に迫られているわけです。

そのほかの観光地はというと、近年、簡易宿泊所などの宿泊施設の受け入れ要件や許可必要条件なども年々厳しくなってきています。

最近では外国人観光客が過ごしやすい宿が閉鎖を余儀なくされているところもあります。

こうした地域の話を聞くと、宿泊施設には歩ける距離での緊急駆け付け人員が必要になりますが、こうした人員を確保する費用が掛かりすぎて、宿は維持できなくなっているというのです。

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対策は規制ではなく、街の整備

これは京都市も同様で、京都市の簡易宿泊所に対する要件として、「9人以下で構成される1組の宿泊者に、施設の全てを利用させる簡易宿所」には、
①施設内に玄関帳場を設置する場合は、職員を施設内部に駐在する

②施設外に玄関帳場を設置する場合は、施設外の玄関帳場か宿泊施設まで10分以内で到着することができる場所(おおむね800メートル以内)に駐在する

③京町家の場合は、宿泊施設まで10分以内で到着することができる場所(おおむね800メートル以内)に職員を駐在する

という要件、かつ電話機やビデオカメラ、鍵などの構造設備があることが条件とされています。

インバウンドが好調な背景には、ホテル、旅館、簡易宿泊所、民泊などすべての事業者の一つひとつのサービスがリピート客を増やしてきた結果でもあります。しかし、観光消費額の増大した街では、街のインフラの整備へ進むのではなく、制度の引き締めによってこうした事業者がやむなく撤退していくという思わぬ形になっています。

通常、どんな事業でもスタートアップ時はトライ&エラーで修正をしながら進んでいきます。机上でのプランは時として意味をなさない場合もあります。まさにインバウンドにおいても、いろいろなことは現場で起きています。

空き家対策~シングルマザー向け下宿(シェアハウス)転用


山中真奈さんとスタッフ

空き家対策については、さまざまな取り組みがなされています。その1つとして東京都世田谷区の事例を紹介します。

世田谷区というと高級住宅宅地というイメージがありますが、世田谷区でも空き家は地域の問題になっています。そのため区では、実際の空き家を数グループで訪問し、解決策を探るワークショップなども行うなど、さまざまな支援を行っています。

そんな取り組みの1つが、子育てしやすい環境づくりを目標にした子育て支援です。
区では「せたがや子育て応援アプリ」を配信し、使われていない空き家に子ども食堂として開放する民間団体の支援なども行っています。

その1つが山中真奈さんが上用賀で立ち上げたシングルマザー向け下宿です。

山中さんは4年間の不動産会社で勤務し、15年に独立。自身の子どもの頃の寂しい経験から「シングルキッズ(=ひとり親で育つこども)を最高にHAPPYに!」をミッションとして、シングルマザー下宿「MANAHAOUSE」をオープンしました。


食事つきなので、子供たちがおなかを空かせて親の帰りを待つことはない

ここでは山中さんも同居し経営を行い、シニア世代にも協力を仰いで運営を行っています。

「ここをシングルマザーの自立支援や子どもたちが寂しくないようにコミュニケーションの場として、子どもたちの将来が輝く未来をつれればと思っています。そのためにはまずは親の心の安定と安定した収益も必要です」
こう話す山中さん。

日々出てくる課題に取り組でいます。また、最近では全国のシングルマザーを支援してたり、住まいを提供している団体とも情報交換を行い、解決策を見出しているようです。

空き家は全国に沢山あります。その活用として、シングルマザー向け下宿というのは、とても有効だと感じます。また、空き家の多い地域は過疎の問題も抱えているところが多く、このような事例はこうした地域でも歓迎されものとなるでしょう。

加えて若いシングルマザーが子供とともに移り住む場所として空き家を活用できれば、生産人口も増え、若い世代も増え、地域全体に活気が出てくるんではないでしょうか。

 

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この記事を書いた人

一般社団法人空家空室対策推進協会代表理事/株式会社エアロスペース CEO/ビーモア株式会社代表取締役タナメラジャパン(マレーシアスパコスメ)代表/jasmin(全国民泊同業組合連合会)理事

一般社団法人空家空室対策推進協会代表理事/株式会社エアロスペース CEO/ビーモア株式会社代表取締役タナメラジャパン(マレーシアスパコスメ)代表/jasmin(全国民泊同業組合連合会)理事 北海道函館市生まれ。現在の札幌国際大学 卒業後、リクルート住宅情報事業部にてライターを務めた後、IT企業を経て不動産関連事業へ転身。その一方で、化粧品とサプリメントのコンサルティングや専門家としてのアドバイザー務める。海外派遣先では、フィリピン・タイ・カンボジア・マレーシアなどで日本への輸出入をテーマにセミナーを行うなどマルチに活動している。

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